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鈴木生子クラリネット・リサイタル~スタンダードの未来が聴こえてくる!

♪【鈴木生子クラリネット・リサイタル】
 鈴木生子Clarinet recital ikuko series 1
~鈴木生子×クラリネット&バスクラリネット=スタンダードの未来が聴こえてくる!~


・2010年7月5日(月)、淀橋教会小原記念チャペル

1.『バスクラリネット独奏のための「二重奏」
     (作曲:テオ・ルーフェンディ)
2.『世の終わりのための四重奏曲』より《鳥たちの深淵
     (作曲:オリヴィエ・メシアン)
3.『ニューヨーク カウンターポイント
     (作曲:スティーブ・ライヒ)
~休憩~

4.『クラリネットの為のソナタ』(作曲:デニソフ)

5.『ヘルマフロディートゥという ”カプリッチョ”
     (作曲:クラウディオ・アンブロッシーニ)
6.『バスクラリネットとテープのためのジャックドォウ
     (作曲:ウェイン・シーゲル)

~アンコール~

7.『サンクトゥス』ミサ曲


e0006365_1750849.jpg久しぶりのソロ・リサイタル。今回は「現代音楽」楽曲で固めてある。元々ジャンル分けにレコード屋での探し物の目安以上の意義を見出せないのだけど、「現代音楽」と言う時の「現代」には「19世紀以降」だか「20世紀以降」程度の意味しかないと思っている。しかも、あくまでも「クラシック」音楽というカテゴリーの中で、ジャンル分けに苦しむような作品を一緒くたにして放り込むための便利なジャンル名称だ、と。なので、「現代音楽」と言ってもピンからキリまで、ものすごく雑多な作品が存在する。もちろん、共通していることもある。それは従来からの伝統的なカテゴリーには当てはめずらいコト。もちろん、すでに「現代音楽」というカテゴリーそのものも「従来からの伝統的な」ものになってしまっているのだが。「当てはまらないこと」自体がある種の型を作り出している側面もある。類型的な現代音楽(あるいはもどきと言った方がよいか)というものも確かに存在している。

会場は、教会のチャペル。と言ってもそれほど大きなところではない。4人がけのベンチが5つほどを10列程度並べてあるので、フルフルでは200人くらいは収容できるのだろう。今回はそこまでの人数はいなかったのではないだろうか。私は中央より右側の5列目辺りに席を取った。ステージは普段説教台があるだろう所に譜面立が二つくらい並んでいる。天井は高い。客席は聖書や讃美歌集を置くための狭い棚のようなものが背についており、足元には荷物を置いたり足を入れられるように工夫された空間がある。ベンチの前後の間隔は狭いのでこれはありがたかった。古い教会だからなのか、こういうものなのか、エアコンの類は一切ない。窓も開けられるようには出来ていないようだ。夕方からときどき雨が降っており、室内は少し蒸し暑かった。

1曲目は、以前にも見たことがある「ソロのためのデュエット」とでも言うべき曲だが、解説によれば、デュエット構造がさらに入れ子になっているようだ。これは気付かなかった。なるほど、そう言われてみればその構造がより分かりやすい。確かに音を追っていると、まるで複数の演奏者が演奏しているように聞こえる。面白い曲だ。

2曲目にはメシアンが演奏された。これは本来50分程度ある曲なのだそうだが、編成と時間の関係で滅多に生演奏されることはないとのこと。しかし、好きな曲なのでぜひ一度演奏したかったのだそうだ。メシアンのイメージ通り(あるいは、メシアンが現在の現代音楽のイメージの(主要な)一部分を作り上げたのかもしれないが)、非常に音響的に考えられており、この演奏会の場所である教会の構造とも相俟って、とても広がりのある演奏を聞かせてくれた。

前半の最後はライヒである。ライヒという音楽家は、作曲家であると同時に、自身も演奏家である。また、彼はクラシック音楽やその興行システムのフレームワークを上手く活用しながらもカテゴリを縦横に行き来するような、そんな活動をしているように見える。「ミニマル・ミュージック」と呼ばれる一連の音楽の中でも、オリジナルとしての力を持ったものの一つとして多くのフォロワーも生んでいる。ロック・ミュージックへの影響も大きい。ライヒ独特の音の組み合わせ方は、それでもなおユニークで、それをクラリネットの多重録音で再現しながらの演奏だ。これは、いつぞやのコンテンポラリーαの定期演奏会でも演奏されたことがあるが、今回もやはり同様にあらかじめ本人が録音した10人分のクラリネットとの共演である。それにしても、これがクラリネットの音なのか、と驚かされてしまう。まるでハーモニウムかシンセサイザーではないかと思うような音を紡ぎ出すのだ。いかにもライヒな澄んだ高音が美しく、揺らめき、打ち寄せる漣のように、宇宙空間を飛んでいく孤独な宇宙船のように、瞬く星々の様に、巨大な鍾乳洞の中のほのかにきらめく水晶の柱の連なりのように。ずっと聴いていたい。

休憩を挟んで後半は私が初めて聴く曲が登場した。

まずは、デニソフ。四分音を多用した作品とのこと。クラリネットやサックスのようにキーパッドを使って穴を塞ぐ様な機構を採用した楽器では、本来そういった中途半端な音を出すのは苦手なはず。リードを締め付ける力を変えたり、キーの押し方を加減して半開きの状態を作り出したりして、そういった中間音を出さざるを得ない。それを楽曲の中で「正確に」出すというのは、ものすごく技量の要求される楽曲だ。現在の一般的に聞かれるほとんどの音楽では平均律が用いられているので、こういった中間音を多用されると「気持ち悪い」と感じる人も多いようだ。ジャズやロック、ブルーズなどでは、特にギターの単音演奏においてはチョーキングやトレモロアームを用いてこういった中間音を連続的に出すという技法を多用するのでむしろそういったポピュラーミュージックの聴き手の方が違和感がないかもしれない。ただし、この曲のようにそればかりが多用されしまうと、結局は「変な曲」「幽霊映画のBGMみたい」で終わってしまうかもしれない。つまりは、そういった商用音楽がどこから元ネタを拾ってきているのかがわかるというものだ。演奏のテンションや演奏者の技量はまったく別次元にあるのだが。そういうことをふと連想してしまった。

続いて、アンブロッシーニというこちらもまったく知らない作曲家の作品。音響的な技法を用いて通常のクラリネットでは考えられない音を出している。管楽器の常識である「息を吹き込んで音を出す」ということすら離れ、「息を吸う音を出す」というのは演奏者の肺活量の大きさとは別の身体能力が必要だ。息を吐くのをコントロールするのとはまったく異なる呼吸制御能力が必要だからだ。そしてまるでエレキギターのフィードバック奏法のような不思議な音も。いやはや、まったく持って面白い。タイトルにはどのような意味がこめられているのか、どうやら「雌雄同体」「両性具有」を意味するようだ。これはギリシア神話のヘルメスとアフロディーテを両親に持つ超美少年で、妖精(ニンフ)に強姦されてニンフと一体化し、雌雄同体となったという物語から生まれた言葉らしい。そういう名前のカプリッツォすなわち奇想曲というタイトルだ。さて、何を持って雌雄同体としているのかは聴き手の判断かもしれない。

最後に持ってきたのは「ジャックドォウ」だ。烏の声は実際の声を録音したもの。これまでにこの曲の演奏は何度も聴いているが、今まで聴いたものとはミキサーのバランスが異なっていたせいか、とても新鮮に聞こえた。この曲って、ここまできらびやかだったっけ?というのが今日聴いた印象。これまで聴いた時には、無意識の内に、主演奏者と伴奏というイメージで生演奏と録音とを聞き分けていたに違いない。それが音のバランスが変わったことで、全てが並列でせめぎあうような本来の音楽的なテンションが聞こえてきたのかもしれないと思う。やはりこれは本来生演奏で、競い合うようにアンサンブルを奏でるべき音楽なのだろう。あらためて、この曲を好きになった。ストラヴィンスキー以降、こういった非西欧の土俗的な民族音楽を取り込んだ音楽というものは、数多く作られてきているのだろうが、その精神的な志向性において一部のロック・ミュージックと通じるものがある。技法的には、特にリズムの解釈や音階、和声の考え方において、それらは顕著だと思う。

e0006365_17544614.jpgそれにしても、今回の「ジャックドォウ」は、これまで聴いた中で一番の迫力ある演奏だった。各パートが鬩ぎ合い、絡みつき、爆発的に拡散し、揃って一方向へ飛び、無秩序に飛び交う。これはやはりどうしてもロックだ。誰かバンド編成用にアレンジしてくれないものだろうか。これほどの緊張感と高揚感を与えてくれる演奏はそうそうお目にかかれるものではない。マルチトラックで上手くミックスダウン出来ればこの迫力を少しでも伝えることが出来るだろうか?SACDのマルチ・チャンネルで聴いてみたい。

そして、アンコール。教会での演奏であることもあってか、ミサ曲からの短い1曲が演奏された。現代音楽以外からの選曲はこれだけだったが、キリスト教音楽の持つ清澄な響きが教会のチャペルに響き、思わず聖歌隊の歌声が聞こえてくるのではないかと耳をすましてしまった。さすがだ。

終演後には、飲み物とお菓子が用意されており、本人が出てきて話ができるという趣向だった。その観客の中にはサックス奏者の梅津和時さんが来ていた。これもまた面白いつながりだ。
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by invox | 2010-07-18 17:42 | ■Music