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「夜更けのエントロピー」 ダン・シモンズ

「夜更けのエントロピー」 ダン・シモンズ_e0006365_2259592.jpg「ハイぺリオン」シリーズを読んだのは1年以上前のことか。その解説を読んで、昔、学生時代に買って、読み始めたものの最初の方だけで読むことを断念した「カーリーの歌」が同じダン・シモンズの作品だったということを知った。「ハイペリオン」シリーズが、ヘヴィでありながらも基本的にはSFの範疇で語られていることもあって、とても読みやすく、むしろがんがん読み進めるほどの本であったのに対して、「カーリーの歌」は当時の私にとっては読みづらい作品だった。そして今回「夜更けのエントロピー」である。

短編集であること、特に共通したテーマなどが設定されているわけではないこと、SFでもファンタジーでもないことなどなど、いわゆる「小説」である作品群。むしろ文学作品に近い手触り。境目はない。のっけから現実と非現実を行ったり来たりしている主人公の物語が別の物語をなぞる形でさらに違う物語を語るというとんでもなくアクロバティックな「語り」が展開されている。正直言って最初はとっつきにくかったが、結果として一番強い印象を残しているのもこの作品だった。タイトル作は息子を亡くした父親の物語。エントロピー、エントロピー、エントロピー…。そう、とても世俗的な男の話だ。「ドラキュラの子供たち」は子供たちがどう生き抜いていっているのかという、吸血鬼の一族だって人それぞれなのだ、というお話。


「夜更けのエントロピー」 ダン・シモンズ_e0006365_2342550.gifこの本に収められている作品は、生々しい、という言葉が良く似合うように思う。それでいてどこか醒めた視線を感じてしまう。グロテスクな場面でも、そのリアリティの故に気持ち悪くなってしまっても、その先を読みたいと思わせる力が私を捉えてしまっていた。もう一度「カーリーの歌」を試してみようか。今なら読めるかもしれない。
by inVox | 2006-03-03 23:04 | ■Books

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