ブログトップ

Out of My Book

invox.exblog.jp

Official inVox Blog; Watched, Read and Listened in my real life.

公開リハ『タッチ・アンド・ゴー』」鈴木生子

「公開リハーサル:ローデリック・ドゥ・マン『タッチ・アンド・ゴー』」鈴木生子

5月11日(木)コア石響

・鈴木生子(bass clarinet)
・相磯優子(violin)
・浦壁信二(piano)

e0006365_022323.jpgこの曲の作曲家であるローデリック・ドゥ・マン立会いの下での公開練習。現代音楽の演奏家にとって作曲家とはいかなる存在なのか。常に変わらず「先生」なのか。それとも対等な「音楽家」なのか。そういう疑問はクラシックでも常に付きまとって頭を離れない。少なくとも私の知っている幾人かのクラシック系の作曲家、あるいは作曲家志望の人間は、演奏家を明らかに下に見ていた。

『タッチ・アンド・ゴー』という曲は、なんとも緊張感にあふれたダイナミクスにあふれていた。それはまるでロックにおける即興演奏に匹敵するほどのテンションの高い楽曲だった。最初に通しでの演奏。演奏の前にはローデリックは何も言わない。演奏は良く練習されている印象。ただし、ピアノが弱く感じられた。グランド・ピアノの蓋がちょっとしか開けられていなかったからか?と思っていたが、ローデリックの最初のコメントで、ピアノはもっと激しく、というのがあったので、やはり弱かったのだろう。まるで鍵盤をなでているかのようだったからだ。バイオリンはうまかった。が、3人がまだ遠慮しあっているかのように時々萎む。

ロデリックは曲の最初から少しずつを分けて演奏させながらコメントをしていく。この曲は演奏家に多くを負っているという。それは、演奏家の技量がそのまま曲の出来を大きく左右する高度に技術的な要求の詰まった曲だからだそうだ。彼の出す指示で演奏は飛躍的にダイナミックになった。やはり楽譜は音楽を伝えるには不完全だということを強く意識せざるを得ない。また、時折演奏者から出る質問は、たとえその演奏者が一流と呼ばれる人であっても、演奏する側もまた様々な疑問を抱きながら曲(楽譜)を解釈しているのだということを教えてくれる。ローデリックの指示により、演奏はより明確な方向性を得て素晴らしいものとなった。それは素人の私が聞いても簡単に分かるほどの違いがあった。ローデリックは決して演奏者を下になど見ていない。いまどきの言葉で言うなら、きちんとレスペクトしている。

似ているわけではさらさらないが、ヘンリーカウの音楽を連想してしまった。やはり高度に作曲されたアヴァンギャルド。あるいは集団即興。音楽のダイナミクスを生み出す上では、演奏者同士の会いコンタクトや、お互いの音に反応しあいながら次の音を出していくといったインタラクティヴな演奏の方がより適しているように思う。

練習終了後に、通訳をしていた作曲家と話しをしてみたが、やはり彼もまた演奏家を下に見ているような印象を受けた。これだけの曲を暗譜して演奏者同士のコミュニケーションによってよりダイナミックに演奏することを私はすぐに思い描いてしまうのだが、「演奏者の能力は作曲家のそれより下」であるが故に「作曲家でもある演奏家でなければそういう形での音楽の完成度を高めることは能力的に不可能」なのだそうだ。彼にとっては演奏能力というのは作曲能力の補助的なものに過ぎない、ということだろうか。そう考えているのだとしたらとても残念なことだ。

インプロヴィゼーションの持つ可能性と当たり外れの大きさ、出来不出来のばらつきは確かにあるが、音楽とは生き物であり変化するのが当然のものであることを考えると、「再現性にこだわる」作曲家は版画作家や小説家と同じカテゴリーに属しているとも言える。しかし、違うのはそれを実現するのは生身の演奏者であり、そういった意味では脚本家と役者の関係に近いのかもしれない。しかし、ローデリックが言っていたように、音楽は演奏者の資質に依存する部分が多分にあるわけで、もし、自身の作曲作品の再現性にのみこだわるならベストな演奏を録音したCDをコンサートで流せばよい。あるいは、完璧に納得いくまでプログラミングした自動演奏を用いればよいのだ。だが、そういった音楽を私たちの多くは「ライブではない音楽」と呼ぶことだろう。

ライブな演奏に拘る音楽家は舞踏や演劇、映画と似たようなベクトルを有していると言えなくはないだろうか。そしてレコーディングに拘る音楽家は写真や絵画、彫刻に似ていないだろうか。それらに優越はもちろんないだろうが、好みはある。私は演奏家の一瞬のパフォーマンスを楽しみたい。良い出来も悪い出来も等しく。演奏者そのものなのだから。私は音楽を通じてその音楽家を愛する。

なお、この公開リハは、5月14日に行われる本番「20世紀のオランダから ~クラリネット・バスクラリネットをめぐって~」のためのもの。本番まであとわずか。とても楽しみな演奏会である。
[PR]
by inVox | 2006-05-12 00:00 | ■Music