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Pauliina Lerche Live in Tokyo

"Pauliina Lerche Live in Tokyo, 3rd & 4th Mar. 2007, at Pit inn, Shinjuku"

e0006365_0104420.jpg前回の来日が2005年の5月後半だったので、すでに1年半以上経っていることになる。その間に2枚目のソロ・アルバム「マーランヤ(Malanja)」を発表し、また、伴侶であるペーター・レルヒェ(Peter Lerche)との双頭バンドであるクリヤ(Kriya)のデビュー・アルバム「クリヤ(Kriya)」も発表したり、ソロ、或いはバンドとしてのステージを数多くこなし、昨年はKihaus Festivalをプロデュースするなど非常に精力的に活動をしてきた。その一方で、ペーターとの間に女児を設けるなど私生活も充実していたようで、今回の来日公演への期待は非常に高かった。

しかし、結果は見事に裏切られた。そう、期待した以上の充実したステージを繰り広げてくれたのだ。前回の単独でのステージで感じていた「これをバンドでやるともっとすごいだろうなぁ」といった部分が現実になった。それも想像したものを遥かに越えて。まさに至福のステージを体験させてもらったと言える。

バンドとして彼女が引き連れてきたメンバーは、まず、実の妹であるハンナマリ。姉妹だけに声の質がよく似ていて、実際には違う声なのにコーラスでは見事に調和し、強化し合い、二人とは思えない厚みを与えている。リード・ボーカルを取る場面も多く、パウリーナ(Pauliina)の声にはかなわないものの、力強く、表情豊かな歌声は、それだけでも十分に説得力のあるもので、聴いていて心地よいものだった。また彼女の弾くバイオリンは、目立つプレイはないものの要所要所でアンサンブルを補強する役割を果たしていた。パウリーナのアコーディオンと重なり合い、アンサンブルの厚みを3倍にも4倍にもしていたと言えば想像できるだろうか。

多くの曲でアレンジを施していたのはギターとドブロを演奏するトゥオマス(Tuomas)だ。フィンランドでは珍しい楽器であるドブロを弾きこなす腕前はたいしたもので、実際彼は週に12時間ギター、マンドリン、バンジョー、ドブロの演奏を教えている先生でもある。パウリーナとともにオリジナル・ヴァルティナのメンバーだった(10歳から数年間)だけにキャリア的にも長い音楽経験がその演奏には深く反映されており、今回のライブ・アレンジの土台をきちんと作り出した上で、演奏するごとに異なるフレーズやアプローチを織り込んだりと柔軟な即興性をも持ち合わせた音楽性の高さは賞賛に値するだろう。彼は他に5つのバンドで演奏しているとのことで、そのうち"FRIGG"(フリッジと読むらしい)というバンドは2枚のアルバムを出し、公式HPマイスペースのページを持っているそうだ。今後も期待の持てるギタリストと言えるだろう。

もう一人のギタリストはパーカッションも兼任するユッカ(Jukka)だ。ステージではツンツンに立てた髪型がユニークで、とぼけた味わいを出していたが、演奏はトゥオマスに負けずにギターをこなし、今回金属製と思われ壷とカホンにジャラジャラ系のわずかなパーカッションだけでとてもユニークだがきっちりとしたリズムを演出して見せた腕前は素晴らしかった。バンドの中での曲のタイミングをキープする役割は彼のもので、展開部分の直前での彼の大きな掛け声は見ていて微笑ましくもエキサイティングな場面となった。彼はトゥオマスと同い年である。この二人のギターのアンサンブルはぴたっと決まっており、自分のギター演奏中にトゥオマスにチューニングを微調整させるなどの荒業も飛び出したりと見ていて飽きさせないステージングを見せてくれた。

ベースを担当するのは最年長のティモ(Timo)だ。大人しめに見える立ち居振る舞いに似合わぬFischのTシャツなどを着ていたりレッド・ツェッペリンが好きといった、バンドの中で唯一とも言えるロック系の趣味も持ったミュージシャンだ。とは言え自身の演奏する音楽はフォーク系であり、演奏はクラシックやロックの影響も見え隠れする安定したフレージングと豊かなリズムで曲の土台をきっちりと形作ってくれていた。彼もまた他のバンドでも演奏しているようだ。

こういったメンバーに囲まれて、パウリーナは実に生き生きとした演奏を聞かせてくれた。初日の公演で1曲目が終わった時に客席から「かわいい!」との声も聞こえていたように、表情の豊かさ、リズムを取る身振りのかわいさ、歌声の素晴らしさ、たどたどしい日本語や英語でのMC、そういったもの全てが彼女の魅力を客席に余すところなく届けていたように思う。ボタン式のアコーディオンと比べても小柄な体で驚異的なテクニックも持ち合わせているが、技術よりもむしろエモーショナルな部分での共感が聴き手に伝わってくるような演奏だった。これまで聴いたことのないようなものであるにもかかわらず、とても親しみやすいメロディは、初めて聴いた時の衝撃を思い起こさせた。これほどまでに心に届く音楽を生み出せるとはなんと素晴らしいアーティストなんだろう!2005年の初来日で一発でファンになってしまったのだ。その時の衝撃をそのままに、更なる進化を遂げたPauliinaの音楽に、今回は心の底から浸らせてもらった。

パウリーナもハンナマリも、エンヤに代表される昨今のケルト系の女性ボーカルのエコーだらけの音には抵抗があるようで、今回のステージでもリバーブについては一切要求しなかった。リバーブが多すぎると誰の声だか分からなくなるのだそうだ。その辺の考え方がしっかりしたボーカライゼーションに繋がっているのかもしれない。パウリーナとハンナマリがハモる時は、メイン・メロディをハンナマリが、低域をパウリーナが担当する場面が多かった。時々ハンナマリがとても高いラインをうたうこともあったりもしたが、基本的にはこの役割分担は一貫していたように思う。パウリーナの艶やかな声をもっと聴いていたいと思う私にとっては、メイン・ラインも彼女に歌って欲しかったと少しだけ思ってしまった。アンコールで聞かせてくれた唯一のトラッド曲ではバックなしの二人だけでのアカペラで客席を圧倒。二人の息のあった力強い歌声は何物にも替え難い魅力に満ち溢れていた。

もともとフィンランド語など分かるはずもないが、フィンランド人でさえ分かる人の少ないカレリア地方の方言で歌われるパウリーナの歌は、言葉を越えて心に入ってくる。これこそが音楽の力なのだ。一生懸命に歌の扱うテーマやストーリを説明してくれてはいたが、例えそれらがなくとも私はパウリーナの歌を聴きたいと思う。だって大好きなのだから。
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by inVox | 2007-03-06 00:10 | ■Music