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「深海のYrr(イール)」

「深海のYrr(イール)(上・中・下)」著:フランク・シェッツィング、訳:北川和代

昨年の超話題作。本来ならあまり食指の動かないセールストークなのだが、昨今の流行でもある地球科学(この本の場合は「海」「深海」「海生動物」など)に関する調査もきちんとされているというのを見て、読んでみようと思った次第。

調査されたものは確かに緻密そうだ。実在の科学者まで登場している。しかし、設定はSF。おまけに実在の映画やその映画の出演者への言及などまであり、それがリアリティを補強しているのか、エンターテイメントとしてのサービスなのか首を捻るところでもある。

「設定はSF」と書いたが、その他のディザスター・ムービーや小説と比べると、「知性」というものがテーマになっている分、そのように感じるのかもしれない。はたして「知性」とはなんぞや。

この本で取上げられる「知性」は、シミュレーション可能なものとしても捉えられているように感じた。そこには西洋自然科学の確固たる地盤があることを臭わせる。世界を静養自然科学の視点から捉えた作品としては十分にエンタテイメントだし、レベルも高いのかもしれないが、静養自然科学がとっくの昔にその限界もさらしてしまっていることを知っている人々が増えている現在、エンタテイメント以上のものをこの作品に求めることは出来なかった。もちろん、これまで知らなかった海の働きなど、大変興味深い情報もたぶんにあることは間違いないのだが。

人間ドラマは、しっかりと人物の背景含めて、描かれている。登場人物がかなり多いのに、そこはさすがベストセラーとなっただけに、様々なドラマ的要素を盛り込んであり、楽しめた。まぁ、読んでいて、一番感じたのが「映画化前提」なのかなぁ、ということだったので、「ドラマ」は必需品だったのかもしれない。良くも悪くもエンタテイメント作品なのだ。まぁ、楽しめたのだから文句は言わない。ついでに言うと、このあと、この作者のデビュー作である『黒のトイフェル』も読んでしまった。
by invox | 2009-07-08 00:11 | ■Books

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